ホワイトナイトとは?買収防衛策の仕組みと事例・注意点をわかりやすく解説

ホワイトナイトとは

この記事の結論

  • ホワイトナイトとは敵対的買収から企業を守るために友好的企業による買収・合併を行う防衛策
  • カウンターTOBや第三者割当増資など複数の手法があり、それぞれに特徴とリスクがある
  • 結果的に企業売却となるため最後の防衛策として慎重な検討が必要

近年、企業買収に関するニュースが注目を集める中で、「ホワイトナイト」という言葉を耳にする機会が増えています。

しかし、ホワイトナイトがどのような仕組みで企業を守るのか、具体的にどんな過去事例があったのか気になる方も多いでしょう。

本記事では、ホワイトナイトの基本的な仕組みから具体的な手法、成功・失敗事例まで、IR担当者が知っておくべき知識をわかりやすく解説します。

目次

ホワイトナイトとは?敵対的買収から企業を守る防衛策

ホワイトナイトについて理解するためには、まず敵対的買収の仕組みを知る必要があります。

ホワイトナイト(White Knight)とは、敵対的買収を仕掛けられた企業を友好的に買収・合併することで、敵対的買収から守る防衛策のことです。

「白馬の騎士」という意味の通り、危機に陥った企業を救う役割を果たします。

企業のIR活動において、買収防衛策は重要な検討事項の一つとなっています。

ホワイトナイトの基本的な仕組み

ホワイトナイトは、敵対的買収者と友好的買収者の競争構造を利用した防衛策です。

敵対的買収を仕掛けられた企業が、自社と友好的な関係にある第三者企業に買収・合併を依頼することで実現されます。

主な手法としては、以下の3つ。

  • カウンターTOB(敵対的買収者より高い価格での公開買付)
  • 第三者割当増資・新株予約権の付与
  • 重要資産の譲渡(クラウンジュエル)

いずれの手法も、敵対的買収者の株式取得を阻止し、経営権の移転を防ぐことが目的となります。

事前予防策と事後対策の違い

買収防衛策は、実施するタイミングによって大きく2つに分類できます。

事前予防策は買収を仕掛けられる前に対応しておく防衛策で、ポイズンピルなどが代表例です。

一方、ホワイトナイトは敵対的買収を仕掛けられた後に実施する「事後対策」の代表的な手法となります。

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分類実施タイミング代表的な手法特徴
事前予防策買収前ポイズンピル、ゴールデンパラシュート常時コストが発生
事後対策買収後ホワイトナイト、クラウンジュエル必要時のみ実施

事後対策の利点は、実際に敵対的買収が発生するまで追加コストが発生しない点にあるのです。

ホワイトナイトの具体的な手法・戦略

ホワイトナイトによる買収防衛策には、主に3つの手法があります。

それぞれの手法には特徴やリスクが異なるため、企業の状況に応じて最適な戦略を選択することが重要です。

各手法の具体的な仕組みと効果について、以下で詳しく解説していきます。

カウンターTOB(対抗公開買付)

カウンターTOBは、ホワイトナイトが最も多く用いる代表的な手法です。

敵対的買収者がTOB(株式公開買付)を実施した際に、ホワイトナイトがそれより高い価格でTOBを実施することで対抗します。

TOBの仕組み上、株主は経済合理性に基づいて高い価格を提示した買収者に応募するため、カウンターTOBが成功すれば敵対的買収を防げます。

ただし、敵対的買収者がさらに高い価格を提示する可能性もあり、価格競争が激化するリスクもあるでしょう。

第三者割当増資・新株予約権の付与

第三者割当増資や新株予約権の付与は、ホワイトナイトの持株比率を高める手法です。

ホワイトナイトに対して新株や新株予約権を発行することで、敵対的買収者の相対的な持株比率を低下させることができます。

この手法の注意点として、以下のようなリスクが挙げられます。

  • 既存株主の株式価値が希薄化する
  • ホワイトナイトに十分な資金力が必要
  • 株主総会での特別決議が必要な場合がある

特に、時価より安い価格での有利発行となる場合、既存株主からの反発を招く可能性があります。

クラウンジュエル(重要資産の譲渡)

クラウンジュエルは、企業の魅力的な事業や資産をホワイトナイトに譲渡する手法です。

敵対的買収者が狙っている「王冠の宝石」とも呼べる重要資産を先に譲渡することで、買収の意味を失わせます。

この手法は焦土作戦とも呼ばれ、企業価値を意図的に下げることで買収意欲を削ぐ効果があります。

ただし、敵対的買収が失敗した後に、ホワイトナイトから資産を買い戻すことも可能な場合があるでしょう。

ホワイトナイト以外の主要な買収防衛策

ホワイトナイトの特徴をより理解するために、他の代表的な買収防衛策についても確認しておきましょう。

各防衛策には実施タイミングや効果、リスクに大きな違いがあります。

以下では、主要な防衛策の仕組みと特徴について解説していきます。

ポイズンピル(毒薬条項)

ポイズンピルは、敵対的買収者が一定の株式を取得した際に発動される事前予防策です。

買収者以外の既存株主に対して、時価より安い価格で新株を購入できる権利を付与することで、買収者の持株比率を希薄化させます。

アメリカでは一般的な防衛策ですが、日本では会社法の規定により実行が困難とされています。

  • 事前に新株予約権を発行しておく必要がある
  • 発動すると株価の大幅下落リスクがある
  • 既存株主にも悪影響を与える可能性がある

強力な防衛効果がある一方で、株主価値を毀損するリスクも高い手法といえるでしょう。

ゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートは、役員の退職金を高額に設定することで買収コストを増加させる防衛策です。

敵対的買収が成功した場合、現経営陣は通常解任されるため、高額な退職金支払いが買収者の負担となります。

ただし、この手法には経営者の保身と疑われるリスクもあります。

また、高額退職金が役員にとっての利益となるため、必ずしも防衛策として機能しない場合もあるでしょう。

各防衛策の比較表

主要な買収防衛策の特徴を整理すると、以下のような違いがあります。

それぞれの手法には適用場面や効果に大きな差があるため、企業の状況に応じた適切な選択が重要となります。

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防衛策実施タイミング主な効果リスク・注意点
ホワイトナイト買収後友好的買収への転換結果的に企業売却
ポイズンピル買収前株式希薄化による防衛株価下落リスク
ゴールデンパラシュート買収前買収コスト増加経営者保身との批判
クラウンジュエル買収後企業価値低下で防衛資産価値の毀損

ホワイトナイトは他の防衛策と比較して、企業価値を維持しながら防衛できる可能性が高い手法といえます。

ホワイトナイトのメリット・デメリット

ホワイトナイトを検討する際は、メリットとデメリットを十分に理解することが不可欠です。

企業側と株主側の両方の視点から、利害得失を慎重に検討する必要があります。

以下では、ホワイトナイトの主なメリット・デメリットと選定時のポイントについて詳しく解説します。

ホワイトナイトのメリット

ホワイトナイトによる防衛策には、他の手法にはない独特のメリットがあります。

最大の利点は、敵対的買収を友好的買収に転換できる点でしょう。

主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。

  • 既存の経営方針や企業文化の継続性が期待できる
  • 従業員の雇用や取引先との関係を維持しやすい
  • 事前の準備やコストが不要で実施できる
  • 企業価値を維持したまま防衛策を実行可能

特に、従業員や取引先などのステークホルダーにとって、友好的な買収者による経営継続は安心材料となります。

ホワイトナイトのデメリット・リスク

一方で、ホワイトナイトには重要なデメリットやリスクも存在します。

最も重要な点は、結果的に企業売却となることに変わりはないということです。

その他の主なリスクとして、以下のような点に注意が必要でしょう。

  • 売却意思表示により新たな買収者を誘引する可能性
  • ホワイトナイトに有利な条件提示を求められるリスク
  • 価格競争により企業価値が過大評価される恐れ
  • 株主への十分な情報開示義務が発生する

特に、適切な情報開示(ディスクロージャー)を怠ると、株主からの信頼失墜や法的リスクを招く可能性があります。

ホワイトナイト選定時の重要ポイント

ホワイトナイトの成功は、適切なパートナー選びにかかっています。

選定時には、財務力・事業適合性・長期的関係性の3つの観点から総合的に判断することが重要です。

具体的な評価基準として、以下の表のような項目を検討する必要があります。

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評価項目重要度チェックポイント
財務力十分な買収資金、安定した財務基盤
事業適合性事業領域の親和性、シナジー効果の期待
長期的関係過去の取引実績、経営陣との信頼関係
企業文化経営方針の一致、従業員への配慮

機関投資家などの有力な候補者との関係構築も、ふだんからの重要な取り組みといえるでしょう。

ホワイトナイトの成功・失敗事例

ホワイトナイトの理解を深めるために、日本で実際に発生した代表的な事例を確認してみましょう。

成功事例と失敗事例を比較することで、ホワイトナイト戦略の成功要因と失敗要因が見えてきます。

以下では、具体的な事例を通じてホワイトナイトの実効性について分析していきます。

成功事例:オリジン東秀×イオン(2006年)

2006年に発生したドン・キホーテによるオリジン東秀への敵対的買収は、ホワイトナイト成功の代表例です。

ドン・キホーテが1株2,300円でTOBを実施したのに対し、イオンが2,500円のカウンターTOBで対抗しました。

この事例の経緯と結果をまとめると、以下のような流れとなります。

  • 2005年:ドン・キホーテが創業者一族から約24%の株式を取得
  • 2006年:業務提携が順調に進まず、ドン・キホーテがTOBを実施
  • 対抗策:オリジン東秀がイオンをホワイトナイトとして招聘
  • 結果:イオンの高値TOBが成功し、オリジン東秀はイオンの子会社となる

この成功により、オリジン東秀は「キッチンオリジン」として事業を継続し、イオングループとのシナジー効果を実現できました。

失敗事例:ソレキア×富士通(2017年)

2017年の佐々木ベジ氏によるソレキア買収では、ホワイトナイト戦略が失敗に終わりました。

ソレキアは富士通をホワイトナイトとして迎えましたが、最終的に佐々木氏のTOBが成功する結果となったのです。

この失敗事例の要因を整理すると、以下のような問題があったことがわかります。

  • 佐々木氏の買収価格が予想以上に高騰した
  • 富士通が投資採算性を重視し途中で撤退を判断
  • TOB価格の上昇により買収資金が想定を大幅に超過
  • 長期取引関係があったにも関わらず資金力で劣勢となった

この事例は、ホワイトナイトに十分な資金力があっても、投資判断によって防衛に失敗する可能性があることを示しています。

事例から学ぶ成功・失敗の要因

2つの事例を比較分析することで、ホワイトナイト戦略の重要な成功要因が見えてきます。

成功と失敗を分ける主な要因として、資金力・戦略的価値・実行タイミングの3つが特に重要となります。

要因成功事例(イオン)失敗事例(富士通)
資金力十分な買収資金を確保途中で採算性を理由に撤退
戦略的価値小売事業でのシナジー明確IT事業での連携効果限定的
実行タイミング迅速な意思決定で対応価格上昇により判断が困難
経営コミット長期的視野で買収決定短期的投資収益を重視

これらの分析結果から、ホワイトナイト戦略では事前の綿密な準備と強固なコミットメントが成功の鍵を握ることがわかります。

【まとめ】ホワイトナイトは最後の防衛策として慎重な検討を

ホワイトナイトは敵対的買収に対する有効な防衛策の一つ。

結果的に企業売却となる「最後の防衛策」であることを理解し、慎重な検討が必要です。

本記事の重要ポイントについて、以下にまとめました。

  • ホワイトナイトは友好的企業による買収・合併で敵対的買収を防ぐ手法
  • カウンターTOB、第三者割当増資、クラウンジュエルの3つの主要手法がある
  • 成功には財務力・事業適合性・長期的関係性が重要な要素となる

日本では敵対的買収の事例は限定的ですが、IR担当者として買収防衛策の基礎知識は理解しておきましょう。

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