PBR1倍割れとは?IR担当者が知るべき原因と改善策を徹底解説

この記事の結論
- PBR1倍割れとは株価が純資産を下回り、市場から「解散した方がよい」と評価される状態
- 根本原因はROE低迷・成長期待不足・市場との対話不足の3つ
- IR担当者は資本効率改善と戦略的な情報開示で持続的な改善を図ることが重要
PBR1倍割れは、企業の株価が純資産を下回る状態を指し、投資家から厳しく評価されている証拠です。
日本の上場企業では約半数がPBR1倍を下回っており、IR担当者にとっても喫緊の課題となっています。
※参照:日本経済新聞「PBR1倍割れ企業、全体の54%に 昨年末比11ポイント増」
本記事では、PBR1倍割れの原因を分析し、IR担当者が実践できる具体的な改善策について詳しく解説します。
PBR1倍割れとは?
PBR1倍割れを理解するには、まずPBRの基本概念から押さえることが重要です。
まずは、PBRの仕組みと1倍割れの意味を理解していきましょう。
PBR(株価純資産倍率)の基本
PBRは「Price Book-value Ratio」の略で、株価純資産倍率と呼ばれます。
株価を1株当たり純資産(BPS)で割った数値で、企業の資産価値に対する株価の割安度を示します。
計算式は「PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産」となり、投資判断の重要な指標として活用されています。
- PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)
- 1株当たり純資産 = 純資産 ÷ 発行済株式数
- 純資産 = 総資産 – 負債(企業の解散価値)
純資産は企業が解散した場合に株主に分配される理論上の価値を表すため、「解散価値」とも呼ばれるのです。

1倍割れが示す企業の状況
PBRが1倍を下回る状況は、株価が企業の純資産価値を下回っていることを意味します。
理論上は「企業を解散して資産を売却した方が、現在の株価より高い価値を得られる」状態です。
つまり投資家の視点で見れば、企業の将来性や収益力に対する期待が著しく低いと評価されています。
PBR水準 | 市場評価 | 投資家心理 |
---|---|---|
1倍超 | 適正~割高 | 将来性への期待 |
1倍 | 適正価格 | 解散価値と同等 |
1倍未満 | 割安~問題視 | 継続価値への懐疑 |
単なる割安株ではなく、企業の根本的な競争力や成長性に課題があると市場に判断されている可能性が高いのです。
PBR1倍割れの根本原因
PBR1倍割れが発生する背景として、よく挙げられるのが以下の3点です。
IR担当者が効果的な改善策を立案するためには、これらの根本原因を正確に把握することが不可欠です。
それぞれの課題について、確認していきましょう。
資本効率性の低さ(ROE問題)
PBRとROE(自己資本利益率)には密接な関係があり、ROEの低迷が直接的にPBR低下を招きます。
理論的には「PBR = ROE × PER」の関係が成り立ち、ROEが低いとPBRも連動して下がる構造になっています。
ROE10%以上の日本企業は22%なのに対し、米国企業の69%がROE10%以上と、大きな差が生じています。
参照:経済産業省「事務局説明資料」
地域 | 平均ROE | ROE15%以上の企業割合 |
---|---|---|
日本 | 9.4% | 13% |
米国 | 18.4% | 51% |
欧州 | 11.9% | 39% |
平均ROEは2018年の加重平均、企業割合は2019年9月末のデータ
低ROEの最大の要因は、内部留保による自己資本の肥大化です。
参照:PICTET「日経平均4万円超え定着への課題」
成長期待の低さ(PER問題)
PBRのもう一つの構成要素であるPER(株価収益率)は、投資家の成長期待を反映する指標です。
日本企業の多くは明確な成長戦略を示せておらず、投資家から将来性を疑問視されています。
特に中期経営計画の実現可能性や、デジタル変革への対応遅れが成長期待を押し下げる要因であるとも考えられます。
- 中期経営計画の目標達成率が低い
- 新規事業への投資が保守的
- デジタル変革への取り組み遅れ
- グローバル展開の戦略不明確
成長期待の回復には、説得力のある戦略ストーリーと確実な実行力を示すことが効果的です。
市場との対話不足
多くの日本企業では、IR活動が情報開示の義務的な側面に留まり、戦略的な対話が不足しています。
投資家が求める情報と企業が発信する情報にギャップがあり、企業価値が適切に伝わらない状況が生じているのです。
特に定性的な情報や将来戦略について、投資家が理解しやすい形で伝える工夫が不足している企業も多数。
効果的なIR活動を通じて投資家との信頼関係を構築することが、PBR改善の重要な鍵となります。

PBR1倍割れ改善の基本戦略
PBR改善には体系的なアプローチが必要で、短期的な対症療法ではなく根本的な改善策が求められます。
基本的な戦略について、以下3つの観点から確認していきましょう。
ROE向上による資本効率改善
ROE改善は最も直接的なPBR向上策で、注目すべき領域としては収益性・資産効率・財務レバレッジの3点です。
改善領域 | 具体的施策 | 期待効果 |
---|---|---|
収益性向上 | 事業ポートフォリオ見直し | 利益率改善 |
資産効率化 | 遊休資産売却・有効活用 | 総資産回転率向上 |
財務最適化 | 適切な負債活用 | 自己資本効率向上 |
売上高利益率の向上と総資産回転率の改善が、持続的なROE向上の核となります。
なお、財務レバレッジの活用は適度な範囲に留め、財務安定性を損なわない慎重な判断が求められるでしょう。
成長戦略の明確化と発信
投資家の成長期待を高めるには、説得力のある中期経営計画と明確な投資戦略が不可欠です。
単なる数値目標ではなく、実現可能性の高い具体的な成長シナリオを示すことが重要。
- 市場環境分析に基づく戦略立案
- 競合優位性の明確な差別化要因
- 定量的KPIと進捗管理体制
- 投資計画とリターン予測
また、ESG経営やデジタル変革など、持続的成長に向けた取り組みも重要な訴求ポイントになります。
株主還元政策の見直し
株主還元強化は即効性のあるPBR改善策ですが、持続可能性を重視した設計が必要です。
配当性向や総還元性向の適正化、自社株買いによる資本効率向上などが主要な手段となります。
ただし、成長投資とのバランスを慎重に検討し、長期的な企業価値向上を阻害しない範囲で実施することが重要です。
株主還元方針を明確に示し、投資家との対話を通じて理解を深めることで、より効果的な改善につながります。
投資家が注目するPBR改善指標
機関投資家がPBR改善を評価する際は、複数の財務指標を総合的に分析します。
IR担当者は投資家の視点を理解し、適切な指標で改善進捗を示すことが重要です。
特に重視される指標は収益性・資本効率・株主還元の3つの観点から構成されています。
これらの指標を戦略的に管理し、定期的に投資家へ報告することで信頼関係の構築につながるでしょう。
ROE(自己資本利益率)
ROEは投資家が最も重視するPBR改善指標で、企業の資本効率性を端的に示します。
伊藤レポートによると、ROEが8%以上あればグローバル投資家の約9割が想定する資本コストを上回ります。
単年度の数値だけでなく、3-5年間の安定性と改善トレンドが評価の対象となります。
ROE水準 | 投資家評価 | 改善の緊急度 |
---|---|---|
15%以上 | 優良企業 | 維持・向上 |
10-15% | 良好 | さらなる向上 |
8-10% | 最低限 | 改善必要 |
8%未満 | 課題企業 | 抜本改革 |
業界平均との比較や競合他社とのベンチマークも重要な評価要素になるでしょう。
ROIC(投下資本利益率)
ROICは企業が投下した資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを示す指標です。
資本コストを上回るROICの達成が、真の価値創造企業として評価される条件となります。
- ROIC = 税引後営業利益 ÷ 投下資本
- 資本コスト(WACC)との比較が重要
- 事業別ROICの分析で課題把握
- 改善施策の効果測定に活用
事業別のROIC分析により、ポートフォリオ最適化の方向性を明確に示すことができるでしょう。
株主還元指標
株主還元の充実度は、経営の株主重視姿勢を示す重要な指標として注目されています。
配当性向だけでなく、総還元性向(配当+自社株買い)の水準と継続性が評価のポイントです。
特に余剰資金の有効活用や、成長投資とのバランスを考慮した還元方針が求められるでしょう。
還元方針の透明性と予見可能性を高めることで、投資家からの信頼獲得につながります。
PBR改善に向けた具体的な施策
PBR改善を実現するには、IR担当者が戦略的かつ実践的なアプローチを取ることが不可欠です。
具体的な施策について、以下で確認していきましょう。
決算説明会での効果的な伝え方
決算説明会は投資家との直接対話の貴重な機会で、PBR改善への取り組みを訴求する最適な場です。
改善計画の具体性と実現可能性を明確に示すことで、投資家の信頼獲得につながります。
単なる数値目標の羅列ではなく、改善のロジックと実行プロセスを丁寧に説明することが重要です。
説明要素 | 具体的内容 | 注意点 |
---|---|---|
現状認識 | PBR低迷の原因分析 | 客観的データに基づく |
改善計画 | ROE向上施策と目標 | 実現可能性を重視 |
進捗管理 | KPIと報告頻度 | 定期的なフォローアップ |
時間軸 | 短期・中期・長期の区分 | 段階的な改善プロセス |
質疑応答では投資家の懸念に真摯に向き合い、透明性の高いコミュニケーションを心がけましょう。

IR資料で企業の魅力を伝える方法
IR資料は投資家が企業を理解する重要なツールで、PBR改善ストーリーを効果的に伝える必要があります。
決算説明資料、統合報告書、中期経営計画などで一貫したメッセージを発信することが重要でしょう。
- 視覚的に分かりやすいグラフとチャート
- 改善進捗の定量的な可視化
- 競合比較による客観的評価
- 将来ビジョンと戦略ロードマップ
特に海外投資家を意識した英文資料の充実や、ESG要素の統合なども重要な差別化要因になります。
PBR改善における注意点とリスク
PBR改善に取り組む際、誤ったアプローチは一時的な効果に留まり、長期的な企業価値を損なう可能性があります。
改善に向けて、特にIR担当者が意識しておきたい点を3つ確認していきましょう。
短期的な株価操作に陥る危険性
PBR改善への焦りから、一時的な自社株買いや過剰な配当に頼る企業が見受けられます。
これらの施策は短期的にはPBRを押し上げるものの、根本的な問題解決には至らないでしょう。
特に成長投資を犠牲にした株主還元は、将来の競争力低下を招く危険性があります。
危険な施策 | 短期効果 | 長期リスク |
---|---|---|
過剰な自社株買い | PBR数値改善 | 成長機会の逸失 |
無理な増配 | 配当利回り向上 | 財務安定性の悪化 |
資産売却頼み | ROE一時改善 | 事業基盤の縮小 |
過度なコスト削減 | 利益率向上 | 競争力の低下 |
投資家は持続性のない改善策を見抜くため、本質的な価値創造に取り組むことが重要になります。
長期低迷企業が避けるべき行動
長年PBR1倍割れが続く企業は、投資家からより厳しい目で見られており、慎重な振る舞い方が求められます。
実現困難な目標設定や過去の失敗への言及を避けるような行為は、投資家の不信を招く要因となるでしょう。
- 過去の約束未達の原因分析と説明
- 現実的で段階的な改善目標の設定
- 外部専門家の活用による客観性確保
- 定期的な進捗報告と軌道修正
信頼回復には時間がかかるため、小さな成功を積み重ねて実績を示していくのが大切です。
業種特性を無視した画一的対応
業界の特性や事業モデルを無視したPBR改善策は、企業の競争力を損なう可能性があります。
製造業とサービス業、成熟企業と成長企業では適切な目標水準や改善アプローチが大きく異なるでしょう。
例えば、資産集約型の製造業が軽資産型企業と同じROE目標を設定することは現実的ではありません。
業界のベンチマークを参考にしつつ、自社の事業特性に合った改善戦略を策定することが成功の鍵となります。
【まとめ】PBR1倍割れ脱却に向けた取り組みを進めよう
PBR1倍割れの改善は一朝一夕には実現できず、長期的な視点での戦略的取り組みが必要です。
IR担当者は企業価値向上の推進役として、経営陣と投資家の橋渡し役を担う重要な存在となります。
- PBR1倍割れの根本原因はROE低迷・成長期待不足・市場対話不足
- 改善にはROE向上・成長戦略明確化・株主還元最適化の3つの軸が重要
- 短期的な株価操作ではなく持続的な価値創造に取り組むことが必要
改善にあたっては、本質的な価値創造活動と効果的なコミュニケーションの両輪が欠かせません。
継続的な改善活動を通じて、投資家からの信頼を獲得し、適正な企業評価の実現を目指しましょう。
第三者視点でのIR強化をお考えの方へ
PBR改善に向けたIR活動では、自社の取り組みを客観的に評価し、投資家に伝える手法が重要になります。
特に長期間PBRの1倍割れが続いている企業では、第三者による専門的な分析と評価が投資家の信頼回復に大きく寄与するでしょう。
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